「ティンガティンガ」とは、タンザニア独立直後の1960年代後半から始まった絵画スタイルの名前です。その名称は、創始者であるエドワード・サイーディ・ティンガティンガ氏の名前に由来すると言われています。エドワード氏はタンザニア南部のトゥンドゥール出身で、マクアという民族に生まれました。タンザニアで一番の大都会ダル・エス・サラームに上京したあと、彼はヨーロッパ人の家で庭師の仕事をしていました。しかし1961年にタンザニアが独立すると、ヨーロッパの人たちは本国に引き上げてしまったため、彼は仕事を失ってしまいました。困って歩いていると、コンゴの人が路上でテンペラ画を売っているのを見かけました。これにヒントを得た彼は、建築現場で見つけたマゾニット(ベニヤ板)に塗装用ペンキで動物や故郷の人々の生活風景を描いてみました。これが、「ティンガティンガ」が生まれた瞬間です。エドワード氏は1972年に不慮の事故で亡くなられましたが、彼が描き始めたティンガティンガの構図や精神は後世に引継がれ、現在も多くの画家たちが新しいアイディアとともにティンガティンガを描き続けています。現在、ティンガティンガは、ダル・エス・サラームにあるティンガティンガの制作コミュニティー(通称「ティンガティンガ村」)をはじめ、タンザニア随一の観光地ザンジバル、タンザニア北部のアルーシャや隣国ケニアなどを中心に、たくさんの画家さんたちによって制作・販売されています。また、欧米や日本においても注目を集めつつあり、各国で展覧会やイベントがおこなわれています。もともとは大きな木の下で、画家さんたちが自由に集まって絵を描いていたティンガティンガの中心地ダル・エス・サラームの「ティンガティンガ村」も、現在では欧米系NGOの援助によって立派な建物が建ち、数十人の画家さんや見習いの人たちが日々制作活動に取り組んでいます。